テクノロジーと田舎暮らし。相反するようでいて、その融合に未来のヒントがある──そう語るのは、地域ITプロデューサー・栗原政史。人口減少やインフラ問題に悩む地方で、彼は「小さなデジタル革命」を静かに進めている。
まずはWi-Fiから。「つながる」ことの価値
栗原政史が最初に手がけたのは、山間部の小さな集落にインターネット環境を整備するプロジェクトだった。
学校にも家にもWi-Fiが届かず、子どもたちはスマホの電波が入る場所を探して山に登っていたという。
そこで彼は、既存の電柱や集会所の屋根を活用して、独自のネットワークを構築。行政とも連携し、数ヶ月で集落全体がつながるようになった。インフラの小さな変化が、住民の意識を変えていった。
高齢者の“スマホデビュー”を支援
通信環境が整ったことで、次に栗原が始めたのは「高齢者向けスマホ教室」だった。動画通話や写真の共有、買い物アプリの使い方まで、丁寧な指導を続けている。
「デジタルは冷たいものじゃない。“誰かとつながれる喜び”を実感できれば、自然と使いたくなる」と彼は語る。今では、集落内にLINEグループができ、安否確認や季節のイベント情報が飛び交っている。
移住者支援と、IT起業の土壌づくり
通信環境が整い、高齢者がスマホを活用し始めると、都市からの移住希望者も増えてきた。そこで栗原政史は、空き家のリノベーションと、テレワーク対応のシェアオフィス開設を提案した。
この試みにより、20〜30代の若者が定住し、ITベンチャーやデザイン事務所などが次々と拠点を構えるようになった。田舎でありながらも、都市と同じ情報レベルで働ける場が整ったのだ。
「便利さ」ではなく、「選べる自由」のために
栗原政史の目指す「デジタル田園都市」とは、単に便利な暮らしを押し付けるものではない。「使うか使わないか、選べる自由がある社会」をつくること。
「自分で選んで、自分で生き方をデザインできる。それが本当の意味での豊かさだと思うんです」
彼の言葉に共感する仲間が全国に広がり、今では地方自治体からの依頼も増えている。